面倒くさがりのための、小説投稿サイト「カクヨム」の規約とガイドラインの解説
新しい小説投稿サイト「カクヨム」ができました。めでたいことです。
私も投稿してみましたのでよろしくお願いします。
さて、
登録の際、いろいろと規約への同意などがあるので、読むのが面倒な人のために解説をしようと思います。
小説の投稿者が気になるだろう点を以下の2つにわけて書こうと思います。
1 何をしてはいけないのか、
2 著作権まわり
<目次>
1 何をしてはいけないのか
アカウントについて
1 登録内容に虚偽、誤記又は記載漏れがあった場合(4条3項1号)
2 未成年が親の同意を得ずに登録すること(同条同項2号)
3 アカウントの共有、譲渡、名義変更、売買(6条3項)
4 複数アカウントの作成(同4項、13条1項6号)
以上はNGなので、注意しましょう。
グロエロ表現について
過度に暴力的またはグロテスクな表現、画像等を投稿する行為(同18号)
これも禁止行為ですが、
少し曖昧なので、ガイドラインのほうにもう少しわかりやすい記載がされています。
ガイドライン
表現の自由を制限するものではありませんが、青少年を含む利用者が気持ちよく利用できるように以下の表現についてはそれ自体が作品の目的(テーマ)ではなく、物語上の必要な要素として必要最低限の描写となるよう配慮をお願いいたします。・表現・描写などにより著しく性欲を刺激するもの
・暴力的又は陰惨な画像・表現・描写などにより興味本位に暴力行為又は残虐性を喚起・助長するもの
・自殺を誘発・助長・ほう助するもの
・犯罪行為及び刑罰法令に抵触する行為又は誘引・助長・ほう助するもの
・他者に対する差別表現、権利を侵害する行為
よほどのことがない限り、禁止されないということですね。
なお、エログロ表現が苦手な人を驚かせないよう、R15/R18などの記載(セルフレーティング)をすることがガイドラインで推奨されています。
二次創作について
指定されていない作品の二次創作作品を投稿すること(13条1項7号)。
当然ですがこれは禁止です。
注意するべきなのが、二次利用がOKの作品であっても、許されない形の二次創作がガイドラインに示されています。
(1)複数の作品のキャラクターが登場するクロスオーバー等の内容は(許諾作品のキャラクター同士であっても)許諾の範囲外となっています。
(2)また、著しく原作の設定およびキャラクター性を損なう描写も許されません。
その他
メールアドレス・電話番号を公開及び交換する行為は禁止です。
おそらく出会い系サイトのような使い方をされるのを嫌がってのことでしょう。
2 著作権まわり
著作権の帰属
著作権は投稿者に帰属する、とのこと(10条2項本文)
時々著作権をしれっと奪い取る投稿サイトがあるのですが、カクヨムはそういうことはしない、ということですね。
「カクヨムの宣伝目的で無償で使わせてもらうことがある(同但し書き)」
とも規約で書かれているのですが、著作権自体は移転しないので、気にしないでいいでしょう。
商業出版をするときの注意
これは義務ではなく、KADOKAWAからのお願いですが、
投稿された作品の商業出版等の利用に関して
外部企業から出版や販売などの問い合わせがあった場合
KADOKAWA社内においても既に出版検討に入っている場合がございます。まずは運営までご一報ください。編集部に確認の後ご連絡させていただきます。
ということです。
(追記)著作者人格権不行使条項について
10条3項 会員は、当社および当社から権利を承継しまたは許諾された者に対して著作者人格権を行使しないことに同意するものとします。
という規定について、「どうなの?」という議論が出ています。
カクヨムの利用規約、著作者人格権を行使しないことに同意するってのが、引っ掛かるんですがどうなんですかね? 作品を赤の他人の著作名義で出されたり、改編されて利用されたりは可能性として有りうるんですかね? 詳しい人、プリーズ。
— めたるぞんび@小説家になろう用 (@METAZONE_2015) 2015, 12月 25
-----追記への追記(2015年12月28日)-----
公式から説明が出ました。
カクヨム側に、邪悪(evil)な意図はないと示されました。
利用者は神経質になる必要はないでしょう。
-----追記への追記おわり-----
以下私見に過ぎないので、不利益が発生した場合の責任を負いかねると付言した上で、書きます。
結論
長くなるので、結論だけ先に書くと、
- 利用者が心配する必要はないだろう。
- ただ、カクヨム側は規約をわかりやすく変えたほうがいい。
そう思います。
サービスを行う上で必須の条項
著作財産権と著作者人格権というのは、別個の権利なので、10条2項だけではカクヨム側は安心できません。安心できないというのは、著作者人格権不行使条項がないと、カクヨム側がトラブルに巻き込まれるおそれがあるということです。カクヨムが投稿者の権利を掠め取るようなガメつい意図を持って規定されたわけではないでしょう(これは私の希望的観測ともいえますが)。
著作者人格権には、主なものとして
- 公開権
- 氏名表示権
- 同一性保持権
があります。
もし著作者人格権不行使条項がないと、
利用者が未公開ステータスにしていた原稿を、カクヨム側がサーバの設定ミスなどで、うっかり公開状態にしてしまうと、もう公開権の侵害になってしまいます。これくらいのことで刑事事件になるなんてのはカクヨム側もたまったものではないです。
また、たとえば、カクヨム側が作品を要約して引用した場合にも、同一性保持権侵害と言われてしまいます。
ですから、著作者人格権に対するケアは、ウェブサービスを展開する上で必須のものといえます。(参考:雨宮美季『良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方』p78)
2008年mixiの規約が問題になったときのニュースでも、
投稿コンテンツをダイジェスト配信したり、ペットの写真をトリミングして紹介したり、サイトでの紹介時に意図が変わらない範囲で文章を読みやすくするといった編集行為や、サイトレイアウトの変更なども、ユーザーの「意に反して」いれば、同一性保持権の侵害として差し止められる可能性が否定できない。「同一性保持権の不行使を定めておかないと、著作物を利用する側からは安心できないということになる」と、弁理士の栗原潔さんは解説する。
と書かれています。
利用者に理解しやすい形に変更することが望まれる
この著作権や著作者人格権まわりの規約については、ウェブ上で何度も議論が発生しています。
投稿サイトの著作権に関する、サービス運営者とユーザー間のトラブルは、過去に何度も繰り返されてきた。01年にはジオシティーズ(現Yahoo!ジオシティーズ)で、04年にはgoo ブログやlivedoor Blogで、06年にはドリコムブログでそれぞれ、著作権に関する新規約がユーザーの反発を呼び、規約改定を迫られた。
結局mixiも、反響が大きくなったため、
「ユーザーは、弊社に対して著作者人格権を行使しないものとします」という規約を、
3 弊社が前項に定める形で日記等の情報を使用するにあたっては、情報の一部又は氏名表示を省略することができるものとします。
4 弊社が第2項に定める形で日記等の情報を使用するにあたっては、ユーザーが設定している情報の公開の範囲を超える形ではこれを使用しません。
というわかりやすい形に変更し事態をおさめていました。
カクヨムの利用規約についても、「著作者人格権を行使しない」というぶっきらぼうなものではなく、利用者に理解しやすい形に変更することが望まれます。