手水鉢さんのカクシゴト

@chouzubachiさんが思ったことやライフハックを書くよ

【2015年度】私的満足度の高かった本7選

本を読む少女の画像

今年は去年よりも本が読めませんでした。

それでも、「読みたいな」と思っていた本をたくさん読めましたので良い一年でした。

あとでも書きますが、日本人の、あるいは自分の精神構造の一部について、腑に落ちる考察に接する事ができたのは、これからの人生に繋がる重要な出来事のように思えます。

 

まず、今年読んで良かった小説から

織田作之助「わが町」

 織田作之助夫婦善哉」と同じく大阪が舞台の短編小説。映画やドラマ舞台化されることの多い「夫婦善哉」のほうがはるかに有名ですが、内容はこちらのほうが綺麗にオチていていいと思います。
 大阪の下町の空気というのは、雑多でムシムシしていて私はとても苦手で、「夫婦善哉」や織田作之助の作品を読むのは敬遠していました。
 ただ織田作之助の最後の作品が見つかったというニュースを聞いて(朝日新聞 織田作之助「最後の小説」発見 占領期、京都の雑誌に)
 夫婦善哉以外の作品を読もうと思って選んだのがこの「わが町」でした。
 この作品、冒頭のつかみがすごくて、いきなり明治時代のマニラから始まります。マニラですよ。大阪じゃないんですよ。もちろん舞台は大阪に移りますけど、マニラです。マニラ。
 マニラの大工事・難工事が終わってから帰国して、あれよあれよという間に病気などで妻や娘、娘婿が亡くなり、孫娘との貧乏暮しが始まります。
 貧乏な上に両親がいなくて寂しい孫と、読み書きができず力仕事をするしかない堅物な主人公の間には軋轢も生まれますが、
 不器用ながらも深い愛情が伝わってきます。
 またキャラの立っている町の人々との触れ合いや掛け合いも見事。夫婦善哉の主人公たちも出てきます(描写がかぶってさえいます)。
 前述のとおりオチもしっかり決めて締めくくり、序盤中盤終盤とすべてがうまく行っている稀有な作品です。

なお、青空文庫なので無料で読めます。

 

わが町

わが町

 

 

北山猛邦「私たちが星座を盗んだ理由」

表紙があまりにも美しいので手にとった小説。短編集です。
一番最初の「恋煩い」が特に優れていて、オカルティックなホラーかな?と思って読んでいたら最後に頭をガツンとやられました。
全編いずれも、最後にどんでん返しをしてやろうという作者の心意気が伝わってきます。

余談ですが、表紙のイラストを手がけたのは片山若子さん。
米澤穂信「〈小市民〉シリーズ」や
星新一「きまぐれロボット」
舞城王太郎「みんな元気。」
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアたったひとつの冴えたやりかた (ハヤカワ文庫SF)」 なども手がけていらっしゃいます。

www.amazon.co.jp

次は新書など

いずれも日本人の精神構造に関するものです。

上田紀行「生きる意味」(岩波新書

日本社会で、私たちは自分の本音を隠し、「他の人がどう考え感じているか」を考えつづけ、自分の個性を消して生きてきた結果、自分の存在感がわからなくなります。
社会において誰とでも交換可能な自分に尊厳やかけがえのなさを実感するのはとても難しい。
そんな私たちが「生きる意味」を取り戻すにはどうすればいいのか。
それを書いたのがこの新書です。

私が「他者の目」が人生に及ぼす影響について興味をもつきっかけになった一冊。

学問にも様々なあり方がある。(中略)一見儲かりそうにない学問であっても、私たちが人生の危機に陥ったときに、一生に一度私たちを人生の深い次元から救ってくれるような学問もある。生きる意味に惑ってしまったときに、その道を力強く指し示してくれる学問もある。そうした「人類の叡智」の詰まった学問を切り捨てて日々儲かる学問だけ残せば、私たちの「生きる意味の病」はますます深刻化することになるだろう(p202)

ベネディクト「菊と刀

言わずと知れた日本人研究を記した本。

安楽椅子探偵のごとく日本に一歩も足を踏み入れることなしに、日本人を見ぬいた名著です。

何十年も前から名著といわれているのに、今頃読んだと言うのはみっともないですが、読んで良かったです。

残念ながら、細かい部分を誤解して記述している部分があり、小説に出てくる安楽椅子探偵のように百発百中で見通しているわけではありません。
しかしそれでも、言われてみればそうだ、と思う部分のほうがはるかに多いです。
忠孝、恩、義理について深い洞察を示し、日本人の精神構造、そして自分の精神構造について理解が深まりました。

鴻上尚史「世間と空気」

ベネディクトからの流れで、日本人の精神構造を考えるうちに「世間」というキーワードに行き着き読むことにした本です。
当初は阿部謹也「世間とは何か」を読みましたが、歴史家ゆえに過去に目を向けすぎているきらいがあり、「今はどうなのか」「世間とどう向き合うべきなのか」について語られず、不満でした。
一方鴻上尚史さんは、阿部さんの「世間」の考え方を踏まえたうえで、現代ではどうなのか、どう対処するかを述べていらして、私のニーズにぴったりでした。

上記の三作品により、「他人の目」という呪縛はかなり私の中で解消されて、精神的に楽になりました。

一ノ瀬 俊也「日本軍と日本兵」

日本人の悪い面が露出したのが第二次世界大戦(太平洋戦争)。
その当時のことを知る上で参考にした本。
主にアメリカが収集した日本軍の情報をまとめた本で、読んでいて吐きそうになります。
当時の日本人が愚かなのではなく、異常でもなく、ただただ限られた手札を合理的に切ろうとしていた結果、異常にしかみえない手段に出ざるを得なかったことが嫌ほどわかります。
そして私がショックを受けたのは、兵士の給料の低さ。そして給料を本国に送金できない事実でした。
つまり男手を戦争に取られただけでなく、残された家族は経済的にも国から何らの手当もされず、近所の人々に依存しなければ生きていけない状況になっていたということです。
捕虜になったり投降したりすると、残された家族は周囲からのサポートを打ち切られる。ある意味人質です。戦死すれば家族へのサポートは継続される。犠牲になった兵士は「世間」に殺されたわけです。

戦争を知る世代が戦争アレルギーなのも当然で、
個人の尊厳なんて微塵もない当時のメンタリティ・空気が、現代においても十分に正されたとはいえないことを考えると、
「現代の戦争では状況が全く違うから大東亜戦争みたいな悲劇は起きない」
なんて軽々しく言う気はなくなりました。

日本軍と日本兵 米軍報告書は語る (講談社現代新書)

日本軍と日本兵 米軍報告書は語る (講談社現代新書)

  • 作者: 一ノ瀬俊也
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/01/17
  • メディア: 新書
 

 

その他

正確に言うと本で読んだわけじゃないですが、キング牧師の書籍も存在してますし、重要なので。

キング牧師の「バーミングハム監獄からの手紙」

日本の嫌な面ばかりを見ていた私が、打って変わってアメリカの暗黒面、すなわち差別の歴史に目を向けたときに読んだものです。
キング牧師は、黒人差別と戦い、暗殺されてしまう偉人。
I have a dream」というスピーチが有名で、こちらは日本ではあまり知られていないですが、私が読んできたありとあらゆる文章の中でこれ以上ない感動をもたらした名文です。

原文はググればたくさんヒットしますが、一つ紹介するならここ。

Letter from Birmingham Jail - Full text

すぐにわかると思いますが、キング牧師の頭の良さが文章からほとばしってきます。

長い長い手紙ですが、決して無駄はなく洗練されています。

内容は、8人の聖職者ユダヤ教、長老教会、メソジスト教会、監督協会、バプテスト教会など)が、キング牧師たちへの違法なデモを非難して書いた意見広告A Call for Unityに対しての反論文です。キング牧師がバーミングハム監獄に拘留されている間に書かれました。
ですから、この8人の聖職者の意見広告をちゃんと知っておかないとなかなか感動できないので、それも読んでおくことを勧めます。意見広告の方は短いです。

1963 Public statement by 8 Alabama clergymen

キング牧師の反論といっても、8人の聖職者たちを非難するものではなく、理解と説得を求める手紙です。
自分たちがなぜデモをするのか、いかに差別が酷く、いかにその対応が遅れ、話し合いを幾度反故にされてきたのか。それらを冷静にしかし熱意を持ってひたむきに述べています。
ともすれば私達が議論において相手の無理解を非難し、人格を攻撃しがちですが、相手を攻撃せず、ただただ理解と説得を求めるキング牧師の文章には、見倣うべき点が数多くきらめいていました。

黒人はなぜ待てないか

黒人はなぜ待てないか

 

 

 2015年の読書習慣の総括と来年に向けて

紹介していない本で良さそうなものもあるにはあるのですが、人に紹介できるのは以上となりました。

小説ではない本のほうが多いですね……。

もともと専門書やビジネス本もたくさん読んでいたので驚くことはないですが、小説を書きたいと思っている以上、もっと小説を読んだほうがいいなとは思っています。

この傾向は来年も続くと思います。

ただ、来年はトルストイ戦争と平和」などの長い小説にも取り組む予定です。